「線は、僕を描く」完成報告会&完成披露試写会
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完成報告会&完成披露試写会
2020年「本屋大賞」3位、2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞した青春芸術小説を横浜流星さん主演で実写映画化した「線は、僕を描く」。本作の完成報告会が9月27日に都内で行われ、横浜さんをはじめ、清原果耶さん、細田佳央太さん、江口洋介さん、三浦友和さん、小泉徳宏監督が登壇しました。撮影の思い出や、共演の感想、映画の魅力をたっぷりと語り合いました。こちらのイベントの様子を詳しくレポートします!
【「線は、僕を描く」完成報告会】
横浜流星さん
青山霜介役
清原果耶さん
篠田千瑛役
細田佳央太さん
古前 巧役
江口洋介さん
西濱湖峰役
三浦友和さん
篠田湖山役
小泉徳宏監督
横浜さん
本日はたくさんの方にお越しいただき、ありがとうございます。作品の魅力をお伝えできればと思っております。
清原さん
たくさんの方々に観ていただける作品になっていたら、嬉しいです。
細田さん
ここにいる皆さんには本作が届いていると思うと、すごく嬉しくて、ずっと表情筋が上がっています(笑)。その中でもちゃんと作品の魅力をお伝えできるように頑張ります。
江口さん
すごく良い作品ができたと思います。この秋にぴったりの、表情筋が上がってしまうような映画になっています。(登壇者の皆さん:笑) ワクワクしながら観ていただける作品になっていると思います。
三浦さん
今日はみんな、“黒で”という衣装の指定があったので、そういう形になっています。話が変わってしまいましたね(笑)。とても素敵な作品に参加できて、本当に嬉しいです。また、こういう場所に立てたことも、とても嬉しく思っています。
小泉監督
皆さんお越しいただきまして、ありがとうございます。(キャスト陣を見渡しながら)こういった素敵な出演者の皆さんのおかげで、本当にすばらしい作品になったと思っております。ぜひその魅力を皆さんにお伝えできればと思っております。
MC
水墨画の世界に触れ、水墨画と向き合ってみていかがでしたでしょうか?
横浜さん
「墨」と「水」と「筆」と「紙」だけで、こんなにも美しい絵が広がることに感銘を受けました。実際にやってみて、自然や自分と向き合うことができる、すごく大事な時間になりました。水墨画を通して、自分も大事なことに気づけたので、本当に幸せな時間でした。
清原さん
水墨画と聞くと、一見「難しそう」と感じられるかと思います。私には今回、「こんなもの自分には描けないだろう」と思うような迫力のある絵を見ながらたくさん練習をする機会がありました。描いていくうちに「どんな人でも挑戦できるものなんだ」と思えました。(水墨画に)触れる機会があって良かったと感じられる日本文化だと思いました。
MC
水墨画の大家、小林東雲先生が水墨画監修として名を連ねています。小林先生は線を見ただけで、その人がどんな方なのか分かると聞きました。
清原さん
私は、先生に「清原さんは思ったより大胆な線を描く人だね」と言われました(笑)。「見た目は少女なのに、こんな線を描くんだ。意外です!」と言われて、何だか恥ずかしくなりました。
MC
心当たりはありましたか?
清原さん
負けず嫌いなところがあるので、もしかしたらそれが線に滲み出ていたのかも…。「先生、すごい!」と思いました。
MC
横浜さんも、先生から何か言われましたか?
横浜さん
「力強い線を描くね」と言われました。でも、霜介は繊細な線なので、僕とは真反対なんです。どうしていこうかと思いました。
MC
それは難しいですね。あえて力を弱めて描いたりするのですか?
横浜さん
それがまた難しいところなんです。繊細に、筆圧を弱くして描いたとしても、それはまた違うんですよね。その時の内面が映し出されるので、シーンごとに、しっかりと霜介の気持ちになって線を描くことを大事にしていました。
江口さん
横浜さんはすごくストイックでした。彼は一年前からずっと練習をして、本作の中では自分で描いているんです。自分で描いたものが、練習した跡として部屋中にある。だいたいそういったものはスタッフが描いたり、美術さんが用意してくれたりするものなんですが、彼はそれを全部自分で描いて、それを部屋に貼っていました。水墨画にどっぷりと浸かっていましたね。
僕も小林先生に(描いた線を)見ていただいたんですが、ひょろひょろひょろっと描いてしまったのか、先生は「ああ…なるほど」と言って、その後には何も言われなかったですね(笑)。
横浜さん
そうなんですね。
江口さん
昔の古い水墨画を見る時に、僕たちは風景を見るじゃないですか。岩があって、竹があって、水があって…と。でも、先生クラスになると、呼吸を見るらしいんです。描いている人の呼吸を見て、「なるほど」と楽しむそうなんです。もう全然僕らでは届かない世界観ですよね。ものすごい奥深さを感じました。でも、ちょっとやってみると、それっぽくできるんですよね。すごくシンプルなんだけれど、奥深い世界だと思っています。
MC
水墨画の大家を演じた三浦さんは、水墨画と向き合ってみていかがでしたか?
三浦さん
果耶ちゃんが言ったように、油絵や水彩画と違って、入りやすいんですよ。「これは無理だ」というものではなくて、技法をいくつかを教わると、なんとなくそれらしくはなるものなんですね。だから「あ、もしかしたらできるかもしれない」と、可能性をものすごく感じさせてくれるんです。でも、いざ家に持ち帰って、またずっと画仙紙に向かって描き続けていると、先生のお手本は簡単なものでも、絶対にそれに近づけない。蘭の葉っぱ一枚も、同じように描けないんですね。お手本も目の前にあるし、一見簡単そうに見えるし、先生はスッス、スッスと描いている。「これできるでしょ」と(お手本を)渡されるんですが、本当にできなくて大変な思いをしました。
MC
ちなみに三浦さんは、描いた線を見た先生から、ご自身の性格について何かお話はありましたか?
三浦さん
何も言ってもらえませんでしたね。ダメなんでしょうね、きっと(笑)。
小泉監督
言えなかったんじゃないでしょうか。先生は、三浦さんが目の前にいるということにテンションが上がっていましたね。(登壇者の皆さん:笑) 先生、テンションが上がるんですよ。とてもかわいらしい、素敵な方なんです。
MC
水墨画を映画にするには、ご苦労もあったのではないでしょうか。
小泉監督
(小林)先生や、原作者の砥上先生も水墨画家でいらっしゃるので、僕も最初に水墨画を教わったんです。本当に「やるべきじゃなかった」と後悔しましたね(苦笑)。難しすぎて、これを映像化するなんて…と。この面白さ、難しさ、すばらしさを、うまく伝えられるのかなというところで、すごく悩んでしまいました。皆さんが練習をしているかたわら、僕はどうやって表現しようかと延々と悩む日々でした。
MC
どのような工夫をされましたか?
小泉監督
俳優の皆さんに、徹底的に練習していただくという解決策です(笑)。
MC
先ほど「水墨画を見る時に、描いた人の呼吸を見る」というお話がありましたが、横浜さんは水墨画の呼吸が分かりましたか?
横浜さん
自分の中では分からないですが、一年間やっていたので、少しずつ身体に馴染んでいきました。それが呼吸にまで達しているのかは、分からないですが…。
MC
細田さんは、水墨画に触れてみていかがでしたか?
細田さん
一度、僕も「水墨画がどういうものなのか」ということを教わる機会を用意してもらいました。触って描いてみたりもしました。本当に難しくて、その人が描く、その時の状態によって絵が変わるぐらい、繊細で丁寧なものだと思いました。だからこそいろいろな人がハマり続けて、今まで歴史が積み重なってきたんだろうと感じました。その瞬間に触れることができたのはすごく嬉しかったです。
MC
呼吸という部分では、清原さんは分かってきたものはありましたか?
清原さん
どうなんでしょうか…。高められていたら良いなと願うばかりです。
MC
かなり練習をされたと聞いています。
清原さん
流星くんは一年間練習をされていましたが、私は短期間でグッと練習する機会をいただきました。先生のレベルの絵は、本当に何十年、何百年単位で練習をしないと描けないものだと思います。私はとにかく、千瑛という役で現場に立たなければいけなかったので、「水墨画にずっと触れて来ていたんだろうな」という所作や、そういったものに注力をしていました。
MC
水墨画に触れたことがない方、初めて見るという方でも楽しめる映画になっていますね。
横浜さん
そう願っています。
監督が先ほど水墨画の見せ方が「難しい」とおっしゃっていましたが、すごく試行錯誤していらっしゃいました。僕は本作を観て、水墨画をエンターテインメントとしてダイナミックに描いていて、誰が観ても楽しく、その魅力をお届けできると感じました。少しでも、(水墨画に)興味を持ってくださったら嬉しいなと思っています。
MC
それでは、共演者の皆さんについて印象を伺っていきたいと思います。
細田さんは、一番共演シーンが多かったのは、横浜さんですね?
細田さん
そうです。「どうやって話しかけようかな」とすごく悩んでいました。僕も人見知りなので「どうしようかな」と思ってふと目にした時に、横浜さんがいつも現場で飲まれている飲み物が、僕の好みと一緒だったので「お好きなんですか!」と話しかけました。
MC
好みが合って、良かったですね!
細田さん
母が好きで、僕も好きになった飲み物なので、母にも感謝しました(笑)。「良かった、細田家にこの飲み物が伝わっていて」と思いました。炭酸飲料です。それがたぶん、最初にした話です。
横浜さん
やっぱり好きなものを共有し合えるというのは、距離が近くなって良いですよね。でも、それがなかったとしても、ちゃんと仲良くなっていたと思います。
細田さん
ありがとうございます。そう言っていただけると、すごく嬉しいです。
MC
横浜さんは、細田さんにどのような印象を持たれましたか?
横浜さん
明るくて実直で、好感の持てる方だという印象でした。
細田さん
恐縮です! 嬉しいです。
MC
清原さんは、いかがですか?
清原さん
私は(細田さんと)同じ事務所なので、以前から知っていたんです。今回は現場で一緒なので、「嬉しいなぁ」と思っていました。
MC
細田さんは、いかがですか?
細田さん
僕は、すごくドキドキしていたんです。同じ事務所というのもあるかもしれないですが、学園祭のシーンでのお芝居で、果耶ちゃんが一回でオッケーを出したから、僕も一回で出さなきゃいけない…みたいな(苦笑)。
清原さん
(笑)。そんな!
細田さん
そういう謎のプレッシャーを抱えながら、僕はやっていました(笑)。
MC
キャリアで言うと、どのような感じなんでしょうか。
横浜さん
キャリアで言うと、(自分よりも)上だよね。子役からやられていますもんね。
細田さん
はい、小さな頃からこの仕事をやっていました。
横浜さん
先輩ですよ。
MC
細田さんからすると、横浜さんが先輩のような感じですか?
細田さん
先輩です!
MC
お互いにそう思っていたのですね。ちなみに他の皆さんは、お二人が炭酸飲料を飲むので「飲もう」という雰囲気になったりしましたか?
■清原さん、江口さん、三浦さんは「飲まなかった」と回答する。
MC
そこは、横浜さんと細田さんだけの絆だったわけですね。
では、清原さんの印象もお伺いしたいと思います。江口さん、清原さんの印象はいかがでしたか?
江口さん
清原さんは少し影のある役で、難しい役ではあったと思うんです。最初は、彼女がNHKのドラマ(2021年NHK総合にて放送「おかえりモネ」)が終わった頃に現場にやって来ました。まだ前のドラマが終わったばかりでこの役(千瑛役)に入っていくということで、何となく緊張も感じていたんですが、ちょっと話すとケラケラケラと笑っていましたね。そのギャップや、彼女の笑顔がすごく魅力的だと思いました。「彼女の笑顔を撮りたい」と監督のような気分にもなってきました。(登壇者の皆さん:笑)
ピシッとしていて、所作がきちっとしていないとできない役なので、やっぱり大変だと思うんです。その部分のギャップ、話した時の笑顔がとても魅力的でチャーミングだと思っていました。
MC
三浦さんから見た、清原さんの印象はいかがですか?
三浦さん
最初はバリアを張っている感じがして、とっつきにくい感じがしたんです。(登壇者の皆さん:笑) でも、それはお互い様なんですよね。僕にもそんな感じがしたんじゃないかと思っています。でも、最後のシーンでパッと「開いたな!」という感じがありましたね。それが私のクランクアップだったので、最後にそんな笑顔が見られてとても良かったですね。
小泉監督
僕は「ちはやふる-結び-」(2018年公開/主演:広瀬すず)の時から一緒に仕事をしていて、その当時清原さんは15歳くらいだったと思います。それくらいから知っているんです。千瑛は霜介の先輩というか、姉弟子役なので、最初は「横浜くんよりも年上のキャストが良いのかな」と考えていたんです。でも、清原さんが候補に上がってきた時に、「たしかに」と思いました。僕の中では15、16歳の清原さんで止まっていましたが、久しぶりにお会いしたらとても大人になって、すばらしい女性になっていました。それでもまだ、当時19歳だったんですが、これは“年下でありながら姉弟子”というところで、(霜介と千瑛としても)すごく良いハレーションを起こすんじゃないかと思いました。見事にそれを再現してくれました。
MC
横浜さんは、清原さんについてどのような印象を持たれましたか?
横浜さん
年齢としては年下ですが、役者としてリスペクトしています。芯があって、すさまじい集中力を持っていて、本当に頼もしいというか、信頼の置ける方です。以前、三年前に共演(「愛唄 ー約束のナクヒトー」2019年公開/主演:横浜流星)をしたんですが、また芯が大きくなって、たくましく成長された彼女を見て、刺激をたくさんもらいました。
MC
江口さんの印象はいかがでしたか?
横浜さん
江口さんは、現場の太陽でした。
清原さん
(横浜さんの言葉にうなずきながら)太陽でした!
横浜さん
誰に対してもフランクに接してくださって、みんなの太陽であり、兄貴的存在です。勝手に僕は、兄貴だと思っています。
清原さん
江口さんが現場にいらっしゃると、スタッフの皆さんも、もちろん私自身もなんだか元気が出るんですよね。江口さんはいつも明るくて、本当に太陽みたいな笑顔で現場に来ていたので、勝手に「今日も一日、撮影頑張ろう!」という気持ちにさせてもらっていました。
江口さん
(照れ笑い)。
三浦さん
僕が以前、江口さんと共演(2006年NHK総合にて放送「土曜ドラマ・ウォーカーズ〜迷子の大人たち」/主演:江口洋介)したのは何年前ですかね?
江口さん
(考えながら)10年は経ちますかね。
三浦さん
今回は二回目の共演です。その当時と、まったく印象が変わっていたんです。イメージで言うと、岩みたいな感じだったんですよ。(登壇者の皆さん:笑) それが今回、マシュマロマンみたいな感じになっていました(笑)。それにちょっとびっくりして、心境の変化でもあったのかと思ったんですが、どうなんですか?
江口さん
(照れ笑いを浮かべながら)今回演じた西濱という役としても、彼女(清原さん)と流星くんの二人を支えるような役だったので、普段から明るくして、何となくその場を温めるような感じで(みんなと)接していました。だからそういった好印象を持ってもらったんだと思います。岩というのは、ちょっと分からないですが(笑)。
MC
江口さんが太陽だとすると、三浦さんの印象はいかがでしたか?
横浜さん
江口さんが太陽で…(三浦さんは)月のような存在ですね。すみません、たとえが合っているのか分かりませんが、現場を包み込んでくれて、優しく見守ってくれるような懐の深い方です。
江口さん
本当にそうですね。
横浜さん
(江口さん演じる湖峰も、三浦さん演じる湖山も)お互いに霜介を見守ってくれているんですが、「湖山先生が目の前にいる」という感覚で、(三浦さんは)優しく見守ってくださっている存在でした。
MC
清原さんは、三浦さんにどのような印象を持たれましたか?
清原さん
先ほど三浦さんが「バリアを張っている」とお話をしていましたが、私は何とかして三浦さんとお話がしたいと思って、撮影の合間に三浦さんの隣に座りに行ったんです。そうしたら、優しく話しかけてくださったんです。
三浦さん
お互いに、そういうことを感じていたんだね。(清原さんと笑顔を見せ合う) 「ちょっと近づいちゃいけないのかな」とかね。歳の差がありながらも、お互いにそんなことも考えながら(現場に)いるんですね。
清原さん
その時のことがすごく嬉しくて、今でも印象に残っています。
MC
では続いて、横浜さんについての印象を教えてください。
江口さん
流星くんは、(現場で)会った時にはすでに役に入っている状態でした。心情からその役を作っていくタイプで、「とてもストイックな人だ」と思いました。そして常に炭酸飲料を飲んでいます。(登壇者の皆さん:笑)
あれは“ダイエットなんとか”じゃないよね?
横浜さん
ストレートです(笑)。
江口さん
ストレートだよね。ストレートの炭酸飲料を飲んでいるんですが、結構大きいボトルでガーッと飲んでいました。僕たちが中学、高校くらいにやっていたようなことを今も再現しているようでした(笑)。活きが良いというか…。それでいて今回は(題材が)水墨画なので「繊細な表現にトライしている」と思いながら見ていました。
清原さん
私は数年ぶりにこの作品でご一緒したんですが、この数年でたくさんの経験を積まれて、あの頃よりも背中が何倍も大きく見えました。現場を引っ張っていく感じとか、すごかったです。
横浜さん
ありがとうございます。
MC
お互い、相手が大きく見えたんですね。三浦さんは横浜さんについて、どのような印象を持たれましたか?
三浦さん
原作、脚本を読んで、霜介役を演じるのが流星くんだと聞いた時は、正直「ちょっと違うかもな?」と思ったんです。流星くんは都会的な感じがするのと、二枚目すぎるのと、「ナルシズムを楽しんでいるんじゃないか」みたいな印象があったんです。(登壇者の皆さん:笑) 会う前(の印象)ですよ! 撮影に入ってみて、それが偏見だったと気づいたんです。(横浜さんは)現場に、コンビニの小さな袋で来るんです(笑)。その中に台本とか携帯とか入っていてね。毎日それで来るので「バッグはないの?」と言うと、「これなんです」って言っていました。その様子も「ああ、霜介だな」と思いました。偏見を持っていて見ていて失礼をしたなと思いました。すばらしい俳優であり、男であると、本当に思いました。
横浜さん
その偏見を覆せてよかったです!(登壇者の皆さん:笑)
MC
皆さんの思う、オススメのシーンやセリフを教えてください。
小泉監督
セリフやシーンは、自分で(脚本を)書いているので「ここが気に入っている」というのもなんですので、そこは皆さんにお任せします。
僕は、この作品を作るにあたって、水墨画の先生にお話を伺っていてとても印象に残ったコメントがあるんです。それがある種、本作全体のマインドにもなっています。線を引く時に、もちろん一筆一筆を上手に描こうとするんだけれど、やっぱり時々失敗する時もあるそうです。でも「『失敗してしまった』と思う線も気にせずに、どんどん描き続けていると、それが失敗ではなくて、味わいになっていくことがある。出来上がってみると、この失敗の線があって良かったと思うことがある」と先生がおっしゃっていました。これは作品中というより、先生の言葉ではあるんですが…。映画全体の指針になったようなコメントだったと思っています。そういった思いで本作を作っています。
MC
きっと、撮影現場でもいろいろなトラブルがあったりするんですよね。
小泉監督
めちゃくちゃあります。やっぱりこれだけの人数、そしてこの背景にはたくさんのスタッフが関わっていると、思い通りにいかないこともありますよね。もちろん天気一つとっても、思い通りに晴れたりはしないわけです。もちろんすべてが思い通りには行かないけれども、作品を作っていく中で、だんだん出演者の方の力を借りたり、スタッフの力を借りたりして、どんどん良いものとしてアップデートしていくんです。その感覚はすごく映画作りに似ているんじゃないかと思っています。何となくそこで水墨画と映画の共通点みたいなものを感じて、これで良いんだなと思いました。
細田さん
僕は、湖山先生がおっしゃった「環境が変われば、心も変わる。心が変われば、線も変わる」というセリフがすごく好きです。
「人の心って、こんなに自由で良いんだ」「本来、自由なものなんだ」と改めて気づいた感じがしています。水墨画の線を通して、その人の生まれ育ってきた環境や心情というのが、おそらく言葉以上にストレートに伝わるものなんだと思いました。そこまで素直な水墨画というものが、ちょっとうらやましくなったんです。なかなか言いにくいこととか、強がってしまう時もありますが、水墨画はそんなことを考えずにストレートに人の思いを伝えるものなので、そのセリフを聞いて「水墨画って本当に自分の心をそのまま表現してくれるし、きっとそれも魅力の一つなんだろう」と感じたので、そのセリフがすごく好きです。
江口さん
二人(霜介と千瑛)のシーンで、最後の方でグッとくるシーンがあるんです。水墨画を描いているところは、黙々と絵に向かっているというシーンばかりなんですが、そこに監督の細かい計算のもと、すごく良いタイミングで音楽が入ってくるんですよね。それが心地良い。流れるように入ってくる。本当はすごく静かで、孤独な世界だと思うんですが、それがステージのように演出されている。すごく気持ち良いんです。本作のもう一つのテーマとしては、二人の関係性として、人には消せない過去があって、そこから一歩踏み出していくというものです。その(ドラマと音楽の)バランスが非常にうまくできていると思いました。監督の頭の中にあった世界を描いているんだという気がしました。
小泉監督
ありがとうございます!
清原さん
霜介が水墨画を始めて、どんどんハマっていってすごく練習を頑張るんですね。劇中にそのシーンもあるんですが、その霜介の内面が熱く滲み出ているような、熱い、熱い、練習の数々が分かるシーンがすごく好きです。そのシーンは、霜介も努力しているし、流星くんも水墨画と霜介と向き合うことでできた証のようなものなんだろうと思います。観ていて、すごく応援したくなるようなシーンだと思いました。
横浜さん
嬉しいですね。僕は、湖山先生の揮毫会のシーンが好きです。圧倒されましたし、心を掴まれました。あそこで湖山先生が霜介に言葉をかけてくれたから、彼は水墨画と出会って、水墨画に魅了されていくんです。だから、あのシーンがなかったら、霜介は普通の平穏な日常を過ごしていたと思うので、あのシーンはすごく好きです。
三浦さん
揮毫会というのは、水墨画のイベント、ショーなんですね。お客さんをたくさん入れて、大きなものに、いろいろな筆を使って、一時間、二時間ぐらいかけて描き上げる、そういったものです。本作自体がものすごく静かな作品で、この二人が出ていると「ラブストーリーかな」と思われるかもしれませんが、そういうことはありません。本当に静かで、その中で「水墨画ってこんなに迫力があるのか」というシーンがいっぱい出てくるんです。そのメリハリみたいなものがすばらしく、本当に自分でも見入ってしまうような作品でした。
MC
個人的には、“後ろから、千瑛が霜介の筆を持つ手を取る”というシーンも印象的でした。
清原さん
あのシーンは、現場でずっと「どちらが筆を動かすか」という話をしていました。初心者なので、難しいんです。(撮影の)中身の話をしてしまって申し訳ないんですが…人の手を取って描くってとても難しいんです。どちらが主軸となって動かすのか、みたいな話で盛り上がりました。(清原さんがにんまりと笑い、登壇者の皆さん:笑)
MC
一瞬、恋愛要素になるのかとドキッとしました。
横浜さん
そうでしたか? (映画を観ている方は)ドキッとしますよね。あの時、本当は僕が主軸で描けば良かったんですが、(清原さんに)押し付けました。(登壇者の皆さん:笑)
MC
押し付け合ったシーンなんですね(笑)?
横浜さん
押し付け合って、結局、果耶ちゃんが…。
清原さん
“押し付け合う”と言ったら、なんだか美しくないですね。
横浜さん
そうですね、すみません。(登壇者の皆さん:笑)
清原さん
二人で頑張りました(笑)。
小泉監督
水墨画を教える動作として、実はとても自然な動作なんですね。僕も先生に手を取ってもらいながら描かせてもらいましたし、原作の砥上先生に教えていただく時も、自然に手を取られて「おおっ」と思ったりしました。そういう経験から、「こういうシーンがあるよな」と思って入れました。だから千瑛としてはごく自然にやっている動作だけれど、霜介は慣れていないから少し「おおっ」と思うシーンなんです。まさか押し付け合っていたとは(笑)。衝撃。
清原さん
小声でやっていたつもりだったんですが、(声が監督にも聴こえていて)本当にすみませんでした。
小泉監督
そこで漏れてくる声の感じもすごくリアルで、映画の中でも採用しています(笑)。セリフというわけではないので、二人から出てくる言葉がすごく自然な感じでとても良かったです。
MC
それでは最後に、横浜さんからメッセージをお願いいたします。
横浜さん
お越しくださった皆さん、ありがとうございます。今日、ここで話したことを踏まえて本作を観ると、また違った楽しみ方ができると思っております。まずは純粋に観て、その後に僕らが話したことを踏まえて本作を観ていただけると嬉しいです。水墨画の魅力もたっぷり詰まっていますし、人や自然の温かさ、美しさ、そして先ほどもセリフが素敵だという話もありましたが、“言葉の力”というのをとても感じました。皆さんにも何か感じてもらえたら、嬉しく思っております。公開は10月21日です。友だちでも、家族でも、恋人でも、誰と観ても楽しめるような作品になっていますので、皆さん、ぜひ劇場でご覧ください。
【「線は、僕を描く」完成披露試写会】
横浜流星さん
青山霜介役
清原果耶さん
篠田千瑛役
細田佳央太さん
古前 巧役
江口洋介さん
西濱湖峰役
三浦友和さん
篠田湖山役
小泉徳宏監督
MC
「瞬間の芸術」と呼ばれる水墨画に初挑戦してみていかがでしたか。
横浜さん
約一年間、向き合う時間をいただきました。水墨画には正解がなく、自分の感情や内面が映し出されるので、自然と自分と向き合うことができ、本当に大切な時間を過ごすことができました。
清原さん
千瑛という役なので、水墨画を完璧に突き詰めなくちゃいけないと思っていたのですが、(練習しているうちに)水墨画って失敗がないので、とっても親しみやすく、誰でも始めやすいものだと気づくことができて嬉しかったです。
細田さん
水墨画って楽しいんですよ! 小林東雲先生も分かりやすく教えてくださるんですが、先生と同じようにはできないんですよ。「何でできないんだろう?」って思うんですが、「これが魅力なのかな」って思えるくらい、水墨画に触れることができて嬉しかったです。
江口さん
水墨画って同じものがない世界なんです。この作品は水墨画という静かな世界をエンターテインメントな世界に描いているので、今日来てくださった半分以上の方は筆を買って帰ると思います(笑)。
会場の皆さん
(笑)。
三浦さん
私は篠田湖山という、まさに小林東雲先生のような日本を代表する水墨画の先生の役を演じました。その先生も今日で本作を観るのが六回目らしいんですよ(笑)。それくらい、水墨画の魅力が伝えられる作品になっています。
MC
監督は、“競技かるた”に続き、本作では“水墨画”の世界を映像化されましたが、映像化にあたって意識したことはありますか?
小泉監督
日本に芸術を扱った映画はたくさんありますが、水墨画を描いた映画はなかったと思います。日本人である自分が(水墨画をテーマに)やる意味があると思ったんですが、すぐに後悔しました(笑)。物語に落とし込むことが難しいことに気づいて後悔しました。それでも、キャストの皆さんが熱心に練習をしてくれたので、水墨画の魅力が伝わるものになったと思います。
MC
10月21日の公開に向けて実施したマスコミ向けの試写会では絶賛の声が相次いでいます。完成した本作を観た感想はいかがですか?
横浜さん
監督は難しかったとおっしゃっていましたが、水墨画をエンターテインメントとしてダイナミックに描いていたので、心が掴まれました。皆さんにも楽しく水墨画の魅力をお伝えできると感じました。
霜介の周りにいる人の言葉は、印象的で背中を押してくれるような言葉ばかりで、温かく爽快で清々しい気持ちにもなれました。いろいろな気持ちにさせてくれる映画です。
清原さん
全部が私を通り抜けていくような爽快感がありました。みんな頑張って生きていて、出会いによって成長していく姿に元気をもらえました。
細田さん
白と黒だけで作られた世界に感動しました。作品に飲み込まれていきました。
江口さん
台本と原作を読んで、「良い言葉がたくさんある」という印象です。気持ちを揺さぶられて力強さを感じました
三浦さん
素直に「面白い作品だった」と監督にすぐ伝えました。それを今から観てくださる方がどう感じるかは気になりますね。
MC
本作の中で、お気に入りのセリフはありますか?
横浜さん
「できるか、できないかじゃない。やるか、やらないかだよ」という湖山先生のセリフです。シンプルですが、この言葉に背中を押されました。新たなことに一歩踏み込むことって怖いと思いますが、一歩を踏み出せれば、素晴らしい世界が待っています。失敗を恐れるんじゃなくて、まずやってみて新しい世界に飛び込んでもらえたらと思えるような言葉でした。
MC
それでは最後に、横浜さんからメッセージをお願いいたします。
横浜さん
これから本作を観るということで、何かを感じてもらえたら嬉しいです。そして、観た後はSNSなどで感想を広めてください!