「百花」初日舞台挨拶
- 初日舞台挨拶
「百花」初日舞台挨拶
映画プロデューサー・脚本家として「告白」(2010年公開/主演:松たか子)「悪人」(2010年公開/出演:妻夫木聡 深津絵里 他)「モテキ」(2011年公開/主演:森山未來)「君の名は。」(2016年公開/主演(声の出演):神木隆之介 上白石萌音)を送り出してきた川村元気さんが、初めて長編映画の監督を務めた「百花」。川村監督自身の体験から誕生した、記憶と愛の物語を綴る小説をベースに、菅田将暉さんと原田美枝子さんをW主演に迎えて映像化しました。
公開初日となる9月9日、TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて開催された初日舞台挨拶には、菅田将暉さん、原田美枝子さん、長澤まさみさん、永瀬正敏さん、川村元気監督が登壇しました。上映後ということで深く掘り下げたコメント、それから共通のお題にこたえるなどした、こちらのイベントの様子を詳しくレポートします。
菅田将暉さん
葛西 泉役
原田美枝子さん
葛西百合子役
長澤まさみさん
葛西香織役
永瀬正敏さん
浅葉洋平役
川村元気監督
菅田さん
本日は、初日から映画館にお越しくださり、本当にありがとうございます。(口コミなどで)ぜひ宣伝していただけると嬉しいです。
原田さん
映画を観たいと思っても、映画館に足を運ぶのは、きっとすごくエネルギーがいることだと思います。今日は、こんなにたくさんの方が来てくださって、観てくれたことがとっても嬉しいです。
長澤さん
席が満員で「映画館に活気が戻ってきたなぁ」と感じられて本当に嬉しいです。本作がたくさんの方に愛されますように、よろしくお願いいたします。
永瀬さん
ぜひお帰りになったら、いろいろな方に本作を広めていただければと思います。
川村監督
メディアでも、ワンシーンワンカットなどの話がいろいろと出ていますが、すべては映画館で観ていただくために頑張ってやったことです。ここにいらっしゃる皆さんには心から感謝したいと思います。
MC
作品の完成おめでとうございます。こうして初日を迎えた今のお気持ちをお話ください。
菅田さん
当たり前のように、決めた初日に映画の幕が開いて、お客さんがいらっしゃる前でこうして舞台挨拶ができることが、今、本当に嬉しいです。一年前に撮影をしましたが、(ほかの作品の公開)延期が多かったので、本作は公開までが早く感じました。
原田さん
今日は、試写会じゃないんですよね。コロナ禍になり、映画館自体が営業できなくなって、入場数の上限が何パーセントとかでしたので、今こうして100パーセント入れること、そして初日にわざわざ来てくださったことが本当に嬉しいです。できれば皆さんに映画の感想を伺いたいぐらいです。
MC
今回の菅田さんとの共演はいかがでしたか。
原田さん
撮影中は、「菅田さんがどんな人なのか」を気にかけるような余裕はありませんでした。母の百合子の側から泉を見ていた感じです。菅田さんもそうだったと思います。撮影から一年が経ち、本作の宣伝活動をするようになって、「菅田さんって良い奴だな」と思いました。
菅田さん
(頭を下げて)あざっす!
原田さん
真摯で一生懸命に良いものを作ろうとしてくれました。普段は、「僕にまかせて!」という感じの男気もあります。息子のように年は若いですが、頼れます。またいつか、一緒に仕事ができたらと思っています。
菅田さん
(原田さんのコメントに対して)本当にありがとうございます。作品をご覧になった皆さんなら、分かると思うんですが、母と息子の会話が成立しないお芝居をしています。ですので、次はぜひほんわかしたコミュニケーションをとりたいです。
原田さん
はい、ぜひ!
MC
楽しみにしています。長澤さんは撮影の日々を振り返ってみていかがですか。
長澤さん
私の撮影は数日でしたので、「どんな作品になるんだろう?」という感じで、お二人のことを傍観者として見ていたように思います。この作品は、自分が観た時に、「これは映画館で観てほしい」とすごく思ったので、初日にこんなにたくさんのお客さんがいてくださることは夢のようです。ここから、たくさんの人に届けば良いなと思っています。
MC
「映画館で観てほしい」とおっしゃっていましたが、特にどのようなところが?
長澤さん
全編にわたり映像が美しいです。そして、現実なのか、過去の記憶や幻想なのか、それを映画体験としてご自身でご覧いただきたいと思いました。
MC
永瀬さんは、原田さんとの共演はいかがでしたか。
永瀬さん
本当に嬉しいです。ただ、なかなか菅田さんと長澤さんに会うのが……。監督が素晴らしい作品に仕上げられたと思うので、それを観てもらえるのは喜びです。菅田さん、長澤さんとは同じシーンがなかったので…僕の役柄的には同じシーンがあるとまずいんですが…また何かでご一緒したいです。
MC
永瀬さんが素晴らしいと思われたのはどんなところでしょうか。
永瀬さん
ネタバレはまずいですよね? とある場所で百合子さんの記憶がループするシーンがあります。そこで、僕の名前を叫んでもらった時に、役者としてはダメなことなんですが、すごく引っ張られて、振り向いて、駆け寄って、抱きしめたくなりました。そのシーンで原田さんが演じられた「魂の叫び」をしっかりと観てもらいたいです。ですから、ぜひ明日も来て(ご覧)ください!
MC
監督は、ご自身の作品が大スクリーンに映し出される日を迎えていかがでしょう。
川村監督
プロデューサーとして、ずっと映画を作ってきて、この作品が40本目になります。自分でも結構作ってきたと思うんですが、いろいろな方から「自分で作るとストイックなものを作るんだね」と言われています。僕のおばあちゃんが認知症になって、記憶を失っていくというよりは、いろいろなことを思い出していって、まさに百花繚乱でした。子どもの頃に好きだったお菓子のこと、好きだった男性のこと、そういったことを思い出して、余計なものが落ちて、大切なものだけが残る様を見ていて「百花」というタイトルをつけたところもあります。おばあちゃんは亡くなりましたが、今日の劇場の様子を見たら、「お墓に報告に行ける」と思いました。(お客さん:拍手)
MC
本日は、映画を観終えたばかりのお客さんですので、いろいろ具体的にお話いただければと思います。
菅田さん
まだ自分のシーンはフラットに観られないですね。原田さんと永瀬さんのキッチンのシーンで、二人の手が触れ合うカットが美しいですね。
お客さんとして観る時と、泉として観る時ではちょっと違いますが、息子目線ではなまめかしくて「気持ち悪い」と思ってしまうのですが、それでも美しかったです。
MC
原田さん、振り返ってみていかがですか。
原田さん
(永瀬さんに)……振り返れませんね?(苦笑い)
永瀬さん
(撮影時は)精一杯でしたね。
菅田さん
すごくきれいでした。
MC
原田さんの思い出は?
原田さん
どこも思い出深いですし、インパクトがありました。私は中に入りすぎていて、十年ぐらいしないと、この作品はちゃんと観られないと思います。それでも菅田さんとの湖での花火のシーンは、すごい体験でした。お芝居も濃かったですし、目の前で打ち上がる花火を前に撮影をするということで、皆さんが用意してくださいました。映る側だけでなく、スタッフも、そのワンカットに懸けて働いてくれました。皆さんの思いも含めて、一つの映像になっていくのだとつくづく感じました。
菅田さん
改めて本作を観て思いましたが、よく成立しましたよね。
川村監督
花火の打ち上げは、予算の関係で三回まででしたから…。実は、あの時の撮影の裏側では怒号が飛び交っていました。
菅田さん
そうでしたね。
川村監督
花火師が、火をつけると三十秒で点火して、そこから打ち上がるので、そのタイミングとお芝居を合わせないといけなくて……。実は、そんなふうにすごく計算されていましたが、そうは見えないですよね?
菅田さん
見えないですよね!
川村監督
お二人のお芝居が自然でしたから!
菅田さん
直前まで「このセリフまでは三秒に一回、このセリフからは四秒に一回」と告げられましたが、結局僕らは本番でそんなことを考えられないから……。
原田さん
そうですね、はい。
菅田さん
だから「よく成立したな!」と思います。
MC
緊張もしますよね?
菅田さん
緊張もしましたね。それに生で観る花火のリアクションは、エキストラの皆さんを含めて、予想できないですからね!
MC
では長澤さんが選ぶシーンは?
長澤さん
私は、子どもを産むシーンです。現場でも、その感覚がいまいちつかめなくて……。そしたら、場所を貸していただいた、産婦人科の助産師さんが一緒にそのシーンの段取りをしてくれて、そうしたら産めたんです!
菅田さん
あれは産んでましたね! 今でこそ笑っていますが、あの時は号泣しましたね。
長澤さん
「産めるかな?」と思っていましたが、産めました!
菅田さん
あのシーンに出てくれた赤ちゃんは、撮影の四日前か五日前に生まれた子なんです。ちょうど撮影する日に、赤ちゃんのお母さんが退院する日でした。そういうふうに撮影に協力してくださる方々のおかげで、リアリティがすごかったです。
長澤さん
神聖な空気感でした。
MC
あのシーンは、観ていて「おめでとう!」という気持ちになりました。あのシーンも川村監督のこだわりだったのでしょうか。
川村監督
その病院は、赤ちゃんが生まれて、お母さんがOKであれば撮影に協力してくれるという話でした。僕としてもミラクルを祈っていました。そしたら、本当に生まれて、おおらかなお母さんがいらして、本当に撮影をさせてくれました。
菅田さん
お母さん、すごかったです。
長澤さん
本当に。
川村監督
助産師さんも最初は指導のために撮影に入っていました。だけど、あまりにも良かったので、そのまま参加していただきました。
菅田さん
あれはお芝居ではできないですよ!
長澤さん
だから何回か産みました。
菅田さん
四人ぐらい産んでいましたね。
MC
新生児の赤ちゃんを抱くなんて!
菅田さん
そうなんですよ! すごかったです、やっぱり! 友だちの赤ちゃんを抱っこしたことはありますが、生まれたての赤ちゃんの体温と心音が鳴り響きまくって……その振動だけでこちらも……。
原田さん
赤ちゃんって本当に命そのものだと直接感じられるので、それが良かったのだと思います。
菅田さん
だから、本当はもうちょっと長く本編に使ってほしかったです。
川村監督
(笑)。だって、二人ともあまりにも号泣しているから……。ラストシーンの前に、そこで泣き過ぎちゃうので、泣く泣くカットしました。これは最後の最後に勝負を持っていっている作品なので!
菅田さん
特に長澤さんとのシーンはいっぱいカットされています!
川村監督
この作品は、そういうクレームが多いです!
菅田さん
……すみません。
MC
いつかディレクターズカットをお願いします!
川村監督
はい。
MC
永瀬さんは?
永瀬さん
花火のシーンですね。台本を読ませてもらった時に、CGではなくて、実際の花火でワンシーンワンカットをやると書かれていたので、「無理でしょう」とずっと思っていました。それが、見事にシーンが成立していました。
あと一つは、神戸の最後のシーンです。最後の原田さんの一言がすごいです! そこで、この作品の何かがつながるので、あのシーンが好きです。この作品には、監督とスタッフとキャストの努力が凝縮されています。
MC
本作は、来週開幕の第70回サン・セバスティアン国際映画祭(16日~24日)のオフィシャル・コンペティション部門に出品されます。おめでとうございます。(会場:拍手)
川村監督
本作がヨーロッパの人にどう観られるのかとても興味があります。早くも、黒澤明監督の映画や、「大地の子守歌」(1976年公開/監督:増村保造)や「青春の殺人者」(1976年公開/監督:長谷川和彦)といった作品で原田さんのことを見知っている審査員の方やヨーロッパの方から、「あの可憐な少女が、どういうかたちで登場するのか、すごく期待している」と言われます。やっぱり原田美枝子という女優は、伝説の人になっているんだと感じています。
MC
原田さんも参加されるんですよね?
原田さん
すごく楽しみです! 海外に行くこと自体が何年ぶりという感じです。本作が通じるのは日本だけなのか、国や文化を超えて分かってもらうことができるのかが、この映画祭の反応で分かると思うんです。今では認知症も身近になっていて、私も何年後かになるかもしれないし、みんな抱えているので、通じるところがあるように思います。それに、母親と息子の親子関係も絶対に分かってもらえると思うので、楽しみしています。
MC
それではここからは、キャストの皆さんに「百花」にちなんだお題を出させていただきます。
本作のタイトル「百花」にちなんで【新たに開花させたい才能は何ですか?】
菅田さん
最近久々にミシンを踏みました。まっすぐ縫うって難しいんですよ。だから、ミシンでまっすぐ縫えるようになりたいです。特に工業用ミシンでダーって、プロの方に習いながらやっても、難しいのでうまくできない。
川村監督
ミシンで何を作るの?
菅田さん
この間はGジャンとかを縫っていたんですが……。それぞれのミシンの使い方も覚えたいです。服(の形)にすることは下手ですができるんです。後は外に出るステッチとかのきれいさになってくるんですよね。
MC
服にするのも簡単じゃないと思います。
菅田さん
そうですよね。素人がこんなこと言ってちゃダメですよね……。まっすぐ縫えるようになりたいです。
原田さん
私は「百花」のおかげで、ピアノが好きになったので、ピアノが弾けるようになりたいです。今は二曲弾けるようになりました。毎日練習していて、もう一曲練習中です。ピアノの音って気持ち良いので、イライラしていてもピアノの練習をすると落ち着いてきます。私の良い相棒です。
長澤さん
今は刺繍(ししゅう)にはまっています。自分が描いた絵を刺繍したいと思うんですが、絵がいまいちうまく描けないので、うまく絵が描けるようになりたいです。
菅田さん
ハンドステッチ? 刺繍はバッチリだから絵なんですね?
長澤さん
はい。適当にちくちく縫っています。自分らしいものが作れるだけなのでバッチリではないです。
MC
それは、どんな絵ですか?
長澤さん
……変な絵です(照れ笑い)。
菅田さん
何かモチーフがあるんですか?
長澤さん
人の顔とか……。
菅田さん
それも楽しいですね。
MC
できるようになったら何かで見せてください。
長澤さん
(笑顔で)見せ……ないですね。
MC
永瀬さんは?
永瀬さん
動物語ですね。周りにニャンがいたり、ワンと共演することが多かったりするので……。相手の気持ちが分かれば、「もっと何かできるのになぁ」と思うんです。
菅田さん
そのニャンっていうのは猫で、ワンというのは犬ですか?
永瀬さん
はい、そういうことです。すみません。ワン語、ニャン語が分かればね。
菅田さん
それは、「この人は通じているな?」っていう人がいるんですか?
永瀬さん
一人いるんです! 急にガバってこられたり甘えられたり、かと思えば逃げられたりもするので、ちょっと聞いてみたい。
菅田さん
(真剣モードで)どうやったら上達するんですかね?
永瀬さん
どうだろう? 僕がワンとかニャンになるしかない?!(会場:笑)
川村監督
何の話してるんですか(笑)?
永瀬さん
(笑)。
MC
永瀬さん、ニャン飼っていらっしゃいますよね?
永瀬さん
はい、近くにいます。まあその子の気持ちが一番(知りたい)ですが、「ああそういうことか」「今触っちゃダメだった」とか……みたいなところが分かれば……。
MC
もう一問いきます。
百合子が記憶を失っていくのと対照的に、泉は母親との思い出を取り戻していきますが、【皆さんが最近取り戻したいもの・ことは何ですか?】
菅田さん
視力とかですかね。
長澤さん
あ~、良い! 私も!
菅田さん
あ、ずるい! 乗ってきた(笑)
原田さん
私も視力!
永瀬さんと川村監督
僕も視力!
菅田さん
僕は(視力が)0.3とかなんですよ。もちろん運転や映画館で映画を観る時はメガネをかけるんですが、日常生活とかお芝居にはそんなには困らなくて…。でも、もうちょっと見えたら良いなって時があるので…それぐらいですか?
長澤さん
私は乱視が強いので、全部ぼやけています。近視もあるんで、遠くも見えないし、だからこうやって(至近距離で)ものを見るんで……これぐらい(四〇センチぐらい)で見たい。
菅田さん
だから刺繍はちょうど良いんですね。
長澤さん
そうなの!
川村監督
おじいちゃんとおばあちゃんの会話みたいになってるから!
菅田さん
視力を取り戻したいです!
MC
原田さんはほかに何かありますか?
原田さん
考えていたのに忘れちゃいました(笑)。
MC
永瀬さんは、何かありますか?
永瀬さん
僕は……視力なんですが、視力以外だと時間ですね。真面目な話になりますが、今日は僕の映画の師匠・相米慎二監督の命日なんです。今映画の話をしたら、「ちょっと成長した」と言われるか、「まだまだだな」と言われるか、「ワンとかニャンとか言ってる場合じゃないぞ」と言われるでしょうね。話ができなかった人でいうと、母親の最期に会えなかったので、二時間でも三時間でも良いからもうちょっとだけそういう人たちと会う時間を取り戻したいですね。
MC
最後に菅田さんと原田さんからご挨拶をいただきます。
原田さん
今日作品を観て、「良いなと思ったら」、お隣の人やお友だちなどに伝えてください。
菅田さん
今日は、初日から映画館に来てくださり本当にありがとうございます。川村監督が、映画館で観るために、いろいろなギミックを使って作った作品です。「そういう映画を作りたい」と言ってくださったことが、頭の中でよみがえって、今のこの状況が嬉しいです。まずは公開できたことに感謝して、そして皆さんの記憶の中にワンシーンワンシーンが残ってくれることを願います。これから一緒に宣伝していただけると嬉しいです。