「劇映画 孤独のグルメ」ジャパンプレミア舞台挨拶
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ジャパンプレミア舞台挨拶
2012年にテレビ東京の深夜ドラマとして放送を開始し、シーズン10までシリーズを重ねてきた「孤独のグルメ」。主演を務めていた松重豊さんが自から脚本・監督を務める形で「劇映画 孤独のグルメ」として映画化され、来年1月10日より公開されます。
11月4日に第37回東京国際映画祭のガラ・セレクション部門にて、ジャパンプレミアが実施され、上映後には監督・脚本・主演の松重豊さんによる舞台挨拶が行われました。こちらの舞台挨拶の模様をレポートいたします!
松重豊さん
監督・脚本・井之頭五郎役
市山尚三さん
東京国際映画祭プログラミング・ディレクター
松重さん
皆さん、お腹が空いている時にすみません(苦笑)。本作を観て、それぞれ駆け込みたいお店があるんではないでしょうか! そんな皆さんばかりだと思います。
12年前にテレビ東京の小さな深夜枠のドラマとして始まった「孤独のグルメ」が、こうして、東京国際映画祭という晴れの舞台で、皆さんにご覧いただけることは、とにかく感無量です。先ほど、客席に忍び込みましたが、笑っていただけていたので何よりです。スタッフ一同、感無量でした。いろんな質問があると思いますが、どうか最後まで楽しんでいただければと思います。
もうちょっとだけ、お腹が空いているのを我慢してくださいね。
市山さん
私は、東宝の試写室で朝10時から本作を観終わってすぐに、お昼を食べた記憶があります。そこで、即決で「東京国際映画祭でやらせてください」という話をしました。この上映が実現してうれしく思っています。
松重さん
ありがとうございます。
市山さん
最初に、私から一つだけ質問です。
いつごろから映画化の話は持ち上がっていて、松重さんが監督をやるのは、最初から決まっていたのでしょうか?
松重さん
ちょうど二年前くらいにレギュラーシーズンの「孤独のグルメ」が、シーズン10という節目を迎えて、「これからもまだ続けるのか?」「それともやめるのか?」という話になりました。それまでにも、若いスタッフがどんどんよそに行ったりして、お別れすることが多くなっていました。この番組で、みんなが育っていけば良いですが、今のテレビドラマの現状がそういう環境ではないので、一回仕切り直そうという気分はありました。
とはいえ、仕切り直して映画を…といっても、「ただおじさんが食べているだけの話をどうやって映画にするんだ?これは相当な力技が必要だな…」と思いました。なので、日本の監督じゃなくて海外の監督でどなたかいないかな? と思いました。幸いなことに、「孤独のグルメ」が韓国でも人気の作品だったので、「TOKYO! <シェイキング東京>」(2008年公開)という作品で一回だけ出演した韓国のポン・ジュノさんに「監督してくれないか?」って手紙を書きました。そうしたら、「忙しいから無理だ。完成を楽しみにしているよ」って無責任な返事が来ました(笑)。「参ったな、どうしようかな?じゃあ日本の監督でやろうか?」と考えもしましたが、その夜に「僕が監督しようかな」と思い付き、僕の事務所の社長にも、「良いんじゃないですか」って背中を押してもらったので、こういうことになったという経緯です。
でも、その翌々日くらいには、今回の主なシノプシス(あらすじ)を書いて、全スタッフにロケ先で見せました。「こういうことを考えているんだけれど、どうかな?」って聞いたら「やりたい」とみんなが言ってくれたので「じゃあ、みんなで頑張って映画化しよう!」というのがきっかけです。
■会場の観客の皆さんからの質疑応答。
【会場のお客さん①からの質問】
ドラマの時に比べて、音楽が変わり、使っている楽器も変わっていました。変えたきっかけや理由を教えてください。
松重さん
今回、映画音楽に関して言うと、これまでは原作者の久住昌之さんが率いるスクリーントーンズさんというバンドがドラマの劇伴を作ってくださっていました。でも、今回は映画っていうことで、物語のいろんなところで映画用の音楽を作っていただく方として、僕が昔から知っているKan Sanoさんにお願いをしました。フランスパートのメインの音楽とか、フランスのオープニングの音楽、ラストのエンディングはピアノメインの曲にしたかったんです。ピアノで単音が流れてくる中、物語が淡々と進んでいき、いろんな人の感情を呼び醒ます効果を狙いたくて、最終的にピアノ音楽が作品のエンディングを飾るにふさわしい楽器なんじゃないかと思いました。
あと、もう一つは、僕の40年来の友人で、僕が最初に8ミリで映画を撮り始めた時の主演俳優である、甲本ヒロトくんが率いるザ・クロマニヨンズに主題歌をお願いしました。ものすごくカッコ良くて、「これぞザ・クロマニヨンズ!」「これぞ腹減った!」という感じがしました。40年前に腹を空かせてラーメン屋でバイトしていた二人のことを思って書いてくれたあの曲が、劇の初っ端でかかると心が震えました。そういう意味で、スクリーントーンズさん、Kan Sanoさん、ザ・クロマニヨンズという、音楽に関しては三つの力強い味方を得て本作の音楽とした次第です。
【会場のお客さん②からの質問】
素敵な作品をありがとうございました。
私は、「孤独のグルメ」の海外出張編を楽しんで観ていました。この作品を通して、新しく韓国のお友だちもできました。
今回、第29回釜山国際映画祭「オープンシネマ部門」に出品されたので、その友だちは観に行ったそうです。なぜ、今回のロケ地に巨済島(コジェド)を選ばれたのでしょうか? あと、“ナンプウ島”が見つからずに困っていたので、何かヒントがほしいです。
松重さん
最初に書いたシノプシスでは、韓国パートは井之頭五郎がサップボードで長崎の五島列島から流されて、漂着したところで、ユ・ジェミョンさんが演じる韓国の男性と知り合います。彼は逃げた奥さんを取り戻しにあの島に行ったという設定にしていたんです。そこから、大冒険話になっていて、奥さんを取り戻そうとする男と、どこの国か分からないところに漂着した男が、研究所に忍び込んで捕まります。そして、ユ・ジェミョンさんは、奥さんと和解して韓国で飲食店をやるというシノプシスだったんです。
でも、これでは韓国パートは「金がかかるぞ」ってことで、上層部からストップがかかりました。「もっと圧縮してくれ」と言われたので「だったらエッフェル塔の前で“孤独カット”をやるしかないでしょ!」と、僕がごねました(笑)。そしたら、フランスに行くことになったんです。
ナンプウ島は、あくまでも架空の島にしたかったし、「韓国なら、長崎の五島列島からサップボードで流されて行けなくはないかな?」「そんな設定でも良いかな?」と思いました(笑)。
お店に関しては、写真で見た時に「この店かわいいな」と思いました。オモニ(母親)と娘さんの二人でやっていて、本当にこのお店で出てくる、五郎も食べている料理がおいしかったので「じゃあ、ここでやろう」ということになりました。巨済島というのは、東京で例えるなら、熱海のちょっと先の網代くらいの感覚ですよね(笑)。ちょっと遠いですが、まあ観光で行っても良いかもしれないくらいの距離感ですね。
今回のロケ場所はどの店もリアルにそのお店を使っているんで、遠いんです。フランスのお店も、五島列島のお店も福江島ではないので、行きづらいし、韓国のお店も釜山からちょっと行かなくちゃいけないんですよ。でも、全てのお店のママさんに、ご本人役をやっていただきました。もし、聖地巡礼する方は貴重な体験ができると思います。今がチャンスですね。
会場のお客さん②
先日、釜山からバスでクジョラに行ってきましたが、2時間40分くらいかかりました。
松重さん
そうでしょ? 途中のサービスエリアにある、ホドゥクァジャ(くるみ菓子)という食べ物があって、おいしいんですよ。またぜひ韓国にも行ってください!
市山さん
そろそろお時間になってしまいました。
松重さん
僕が長々しゃべっちゃって、すみません(苦笑)。
市山さん
最後に、皆さんに一言お願いします。
松重さん
一言では言い切れないですが…(苦笑)。まだ公開は先ですが「思ったより良かったな」というその気持ちを、どうか胸に留めず、どんどん外に発信していただければありがたいです。やっぱり、色眼鏡で見られがちなんでね。「テレ東の深夜番組が映画になって、しかも主演をやっていたやつが自分で監督をやったらしい」って笑い話にしかならないような試みなんで(笑)、ぜひ、皆さんのお力を借りしたいです。「意外と面白いじゃないか」と思ってもらいたいです。今回、東京国際映画祭で通訳さんが外国の方のためにアナウンスしてくださいました。ぜひ、この作品を買ってください! フランスではまだやれていないので、ぜひやりたいと思っています。よろしくお願いします。